憧れというものがある。生きているうちに一度は言ってみたいセリフ。ずっとポケットに入っているのに、いつも取り出すのは今ではないとためらわれる。ときどき指先で弄んではつい微笑んでしまう、そんなセリフがある。
例えば私は「クックック」と笑ってみたい。
勝手に笑っていればいい、と思われるかもしれないが、今の私では全然ダメなのだ。その言葉を発することが重要なのではない。その言葉を発するべき私が、然るべき条件下で発してこそ意味がある。つまり、まず私自身がその言葉を発するに足る人格を形成しなければならぬのである。これはとても難しいことだ。一生のうち、その人に最適な言葉を発することの出来る機会というのはどれほどあるのだろう。それが難しいからこそ、ついに発せられた最適な言葉は多くの人の胸をうつのだと思う。
ところでいつの世にも天才というものがいる。この場合の天才は、いつでも最適な言葉を出すことが可能な人間である。私の職場にも一人天才がいる。しかし彼女は、けして自らの才を活かそうとしない。それはとても残念なことである。彼女ならいつでも最適な「グハハ」という笑い声を出せるというのに。
もしかしたら、彼女自身その才能に気づいていないのかもしれない。それならば私がそれに気づかせるべきである。しかしどうやって。
「Fさん、ちょっとグハハって言ってみてもらえませんか」
おそらく直後に私の体は壁に叩きつけられるだろう。蹴りかタックルか咆哮いずれかによって。しかしだからといって諦めるには惜しい。彼女ほど「グハハ」という笑いが似合う人間は他にいないのだから。
そもそも「グハハ」という笑いは非人間的である。超獣軍団を束ねる魔獣にこそ相応しい、とても格好良い笑いなのである。ではまず、その辺を自覚してもらうのはどうだろう。
「Fさんて、格好良いですよね。その、なんていうか魔獣みたいで」
これもやはりタックルは免れないだろう。私の見たところ、日本人女性の99%は魔獣みたいと言われたら怒る。もしFさんが残りの1%に属しているならば、とっくに「グハハ」を聞けているのが道理だ。
では魔獣的キャラの素晴らしさを説くのはどうだろう。「グハハ」の似あう魔獣の特徴を考えてみたい。
・役に立たない部下を叱るのが得意
・四天王で言うと2番目のポジション
・1番目のポジションの奴が主人公に手こずるのを馬鹿にするのが上手
・実際主人公と戦う時になると、力に覚醒した主人公の友人的ポジションのやつにやられたりする
・命からがら魔王のもとに逃げ帰ると、魔王に殺される
・後に魔獣の元部下的な奴が出てきて、意外と部下に慕われていたことが判明
・その元部下的な奴が主人公を意外と苦しめる
・話のとっかかりは魔獣をやられた復讐劇だったはずが、いつのまにか元部下は意外といい奴的な話になって、最終的に元部下は主人公パーティへ。魔獣のことは有耶無耶に。
・いざ最終決戦へ、という段になってなんと魔獣復活
・しかしゾンビとしての復活。「イタイ」とか「ニクイ」とかカタカナ語しか喋れない不憫
・しかも最終決戦前にパワーアップした主人公に瞬殺される
・結局、魔王はひどいやつだ、と思わせるためだけのキャラに
・さらに主人公が「あいつは敵だけど悪い奴じゃなかった」みたいなキャラ付けを勝手にし始め哀れ
・最終的にファン投票では12票を獲得
うーん。素晴らしいな。Fさんがこのわけわからんストーリーに実写で参加してくれるなら、ブルーレイで10本くらい買いたい。ブルーレイ再生機器持ってないけど。
では以上の点を踏まえ説得するにはどうすれば良いか。
「Fさんって意外と部下に慕われていますよね。百獣の王も真っ青ですよ」
タックル。
「Fさんていつから四天王に入ったんですか」
タックル。
「Fさん、12票おめでとうございます」
タックル。
ダメだ。これじゃ埒があかない。そもそも人語が通じていることさえ奇跡なのだから、これ以上は何も望むなということでしょうか神様。
いや、ここは発想を変えよう。Fさんは女性だ。今まではそこをないがしろにしすぎていたのだ。女性の喜ぶ言葉。可愛い。そう、可愛い。巷では、可愛いは正義とか言うし、これで押し切るしかないだろう。
「Fさんって、ゾンビになってもわりと可愛いですよね。よく言われません?魔獣の中で一番可愛いって。ほら、ガハハって笑ってみてくださいy
多分私はこの世から消されると思う。

骨は拾うから実行してみてくれ
返信削除画像がいいからコメントしてみた
骨が残るとは思えない。むしろ骨まで食べられます。
返信削除画像ね。うん、狙い通りだよね。