「つまんねー」Sはぼやく。「なんか面白いのない?」
「あのお腹を押してはぁはぁやるやつは?」色黒のTが提案した。
「あの気絶するやつ?あれでも、やってると脳が死ぬらしいよ」
「ええっ、マジで?嘘、だって俺5回くらいやっちったよ」一番体格の良いNは青ざめた。
「たぶん10回くらいやらなければ大丈夫だよ」Tは根拠もなく言った。
「暇だー」
Sは不思議に思う。なぜ一人だと退屈なんて感じないのに、誰かといるとそう思うのだろう。自分が部活をサボると言い出したとき、彼らも便乗してくれたのは嬉しかった。それなのに今はどちらかと言えばいなくなって欲しいと思っている。だんだん、こんなところにいなければならないのは、こいつらのせいなんじゃないかと思えてくる。
「うちに行ってさ、ゲームやろうよ」メガネをかけたRは言った。
「駄目だよ。そしたら部活サボったの親にばれるじゃん」とN。
「先生が出張とかで今日は休みになったとか言えばいいだろ」
「学校に電話されたらどうすんの。うちの親、すぐ疑うから無理だって」
「お前が嘘ヘタだからだろ。お前すぐ顔真っ赤になるもん」
「あのさ」二人を仲裁するようにTは口を挟んだ。「やることないなら、部活行けばよくない?」
一瞬、部屋は静かになった。
そして次の瞬間にはTを罵倒する言葉が響く。
Sはいたたまれなくなって、廊下の方に目をやった。そして、赤く光るそれを見つける。
「なあ、あの非常ボタンって、押したらどうなるか知ってる?」
「え、サイレンが鳴って消防署の人がくるんじゃないの」
「押してみようか」
「だめだよそんな。警察に捕まる」
「バレなきゃいいじゃん」
「指紋とられてバレるって」Nは引きつった笑顔で言った。
「あ、ハンカチの上から押せば指紋つかないね」Rは得意げに反論する。「ドラマで見たよ、そういうの」
「ハンカチなんて誰が持ってんの?」
再び沈黙が訪れる。
「第一さ、今どきカメラくらい付いてんじゃない?」
「非常ボタンのとこに?」
「うん。そうじゃなきゃ犯人捕まんないかもしれないし」
「全然付いてるように見えないけど」
「見えないくらいちっちゃいんだよ」Nは大きな身体を縮めて言った。
Tは口をすぼめて首を捻ったが、Rは大げさに頷いた。
「そっか、じゃあ、ハンカチを持ってきて、変装しなきゃいけないんだ」
「だからぁ、捕まるってば」
「どうやって」
「臭いでバレるよ、絶対。警察犬ってものすごい頭もいいし」
「Nの臭いならバレるな」
Sの言葉を皮切りに、RとTは笑いながら「Nはくせーもんな」「Nのジャージが非常事態です!」などとはしゃいだ。
「警察犬はめちゃくちゃすごいのっ。お前らの臭いだってわかるのっ」
顔を赤くするNを鎮めるようにSは落ち着いた声で言った。
「そもそもさ、なんで捕まるの」
「なんでって、ええと」
「消防署に迷惑をかけたら犯罪になるからじゃない?」Tの代わりにRは答えた。
「迷惑っても、それが仕事なんだろ?」
「ほんとに火事とかが起きてたらそうだけど、そうじゃないのに押したら仕事のじゃまになるよ」
「勘違いしました、じゃ駄目?あとは、消防署がくる前に自分たちで火を消しました、とか」
「バレるよ、絶対・・・」Nは不安そうにSを見つめた。
「なんで」
「だって、ほら、天井に煙のセンサーだってあるし、勘違いだって言ったって信じてもらえないよ」
「Nだったらな」Tはそう笑ったけれど、3人はそれを無視した。
「じゃあさ、ほんとに火をつけてやればいいじゃん」Sの目は非常ボタンの上の赤い光だけを見ていた。「それで消せば、嘘になんないだろ」
NはSとRを交互に見た。RはSに顔を向けたままけれど目を合わせられずにいた。Tだけが未だに校庭の部活を気にしていた。
「本気なの」Rはようやく開いた口でそれだけ尋ねた。
SはゆっくりRに顔を向ける。その顔にRは言い知れない恐ろしさを感じていた。
「嘘だよ。そんなのやるわけないじゃん。別に、面白くもないし」
そしてSは立ち上がって、廊下の方へ歩きだした。
「どこ行くの?」
「便所」
Sが去った後、次第に室内は以前の空気に戻っていった。多少のぎこちなさを残したまま。
そして。
10分後、学校中をサイレンが響いた。
Tが驚いて声をあげる。
Nは笑顔のまま固まって、Rの方を見た。
「ああ、やっぱり」
Rはそう呟いた。
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