2010年4月5日月曜日

 4月から東京で一人暮らしを始めたのですが、部屋はとても居心地の悪いものでした。壁が薄いので隣りに住む人の物音や、換気扇の音、キッチンの隅で一晩中働く冷蔵庫の音が煩くてたませんでした。それから六畳もある空間が一人でいるには広すぎました。どこを見回しても誰もいませんし、叫んでも誰も返事をしてくれません。もしも恐ろしい夢を見てしまったらどうすればいいのでしょう。そんなわけで、この部屋で一瞬も眠ることができずに過ごしてきました。
 けれど、思いついたのです。それは駅前の花屋の前を通りかかったときでした。色とりどりの花なんて見たくもないので下を向いて歩いていたのですが、コンクリートで作られた重々しい鉢に目を奪われたのです。まるでお墓のように白いその質感と、それが作り出す影。きっとそこにぎっしりと土が詰まっていて、仰々しい葉を垂らすこの木の根っこがその中で静かに眠っているのでしょう。
 私もその中で眠りたいと思いました。その中でならきっと眠ることが出来るはず。けれど人間用の鉢なんてどこにも売っていませんでした。お金があれば何でも手に入るなんて、嘘ですね。
 しかたがないのでお風呂で代用することにしました。土は思っていたより重たくて運ぶのに苦労しましたが、浴槽が土でいっぱいになるとなかなか壮観で達成感がありました。それにようやくここで寝られるのだと思うと、やっとここが自分の家になったような気がしました。
 夜も更けて、私は土の中に埋まりました。土の中は冷たくて、また、全身に何かがずっと触れているという状態に違和感がありましたが、だんだんと気にならなくなっていきました。少し意識すれば、身体が土に馴染んでいくのがわかって面白いです。そして最後には私の身体なんて消えてしまって、すっかり土に溶けてしまえます。その心地よさが静かに私を眠らせてくれるのです。
 目が覚めると私の身体はちゃんと元に戻っています。それとも、身体が元通りになると目が覚めるのでしょうか。半分だけの状態で目覚めたことはないので、私にはわかりません。
 でも、こうして私は一日を始めることが出来るようになりました。毎日新しい私も、このベッドを気に入ってくれているみたいです。

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