ある集団に利益をもたらすシステムが存在すると仮定する。このシステムによって利益を得るためにはルールを守らなければならない。
さてここに善良なる市民Aがいる。Aは正直に生きることが正しいと考えている。
Aはそれまで全うに生き、当然のこととしてルールを厳守しシステムによる利益を得てきた。
しかしあるとき、Aはルールを破った。
Aに、なぜルールを破るのかと問うと、Aは「その時の状況下で、正直な行いを通すのであればルールを破らざるを得なかったからだ」と答えた。
Aの置かれた状況とルールを精査してみるとなるほどAの言うとおり、正直であるためにはルールを破らざるをえなかったようである。そのような状況であれば、たとえ誰であっても、正直者はルールを破らざるをえないに違いない。
規則に従うのであれば、ルールを破ったAはシステムからの利益を得られないことになる。しかし、それでは正直に生きようとするAが不憫である。そこでシステムの管理者はAにこう言った。
「見逃してあげるから、嘘をついてルールを守りなさい」
Aがシステムから利益を得るためには、信念を曲げて嘘をつき、ルールを守らねばならない。このときシステムはAに対して自らが生む利益を与えるのと引換に、嘘をつかせるという不利益をもたらしている。Aはいずれの選択をしても不利益を被ることになる。
これを解決するためには、ルールか、Aの信念を変える必要がある。
Aのような信念を否定するのはおかしい、と考えるAの信念の支持者がいたとする。彼はシステムの管理者にルールを変えるように求めた。しかし彼の意見は却下された。なぜか、と問うとシステム管理者はこう答えた。
「Aが正直であるままシステムから利益が得られるようにルールを変更すると、そのルールのもとでは『不正を犯してでも利益を得ようとする者』が最も大きな利益が得るようになる。そうすると、人は自らの利益を最大限にしようとする生き物であるため、みなが不正をすることになる。誰も正直に生きなくなる。そのためである」
では不正を取り締まれるようなルールにすれば良いのではないか、と進言すると管理者は「それではシステムが破綻する」と答えた。
すなわち、Aの信念を守ろうとすると、そんな信念が存在しなくなる、と管理者は言うのである。仮に管理者の言うとおり、ルールを変更した場合誰も、Aでさえその信念を捨てることになるとしたら、どうすべきだろう。
信念だの何だのがわかりづらかったら、以下のように変えてみる。
Aという生物種がいる。Aは現在の環境下では苦痛に満ちた一生を送らざるをえない。しかしAに最適な環境を与えると、Aは死滅する。どうすべきか。
こういう話は極論過ぎる、物事において重要なのはバランスである、というのならば、生物種Aあるいは正直者Aの苦痛はどう見るのだろう。バランスよく、死なない程度に傷つけというのか。
ルールを、より良いものに変えていこう、みたいなのがよくあるパターン。でもすべて問題を先送りにしているだけだ。そうして解決することはない。解決しない。それが前提だ。
なんという中2的問いだろう。そもそもそんなこと書くつもりではなくて、単に「aに最適な環境を与えると、aはいなくなる」というケースって面白いねってことを言いたかっただけなんだけどね。でもそこまで抽象化するとありきたりだな。ウイルスとかって、そんなだよね。どうしたらいいんだろうね。